「美しきかな熊野古道」
週末、久しぶりに熊野古道を歩いた。暑くもなく寒くもなし。好天に恵まれ、快適な山歩きだった。
▽スタートは田辺市中辺路町の小広峠。そこから草鞋峠、岩神峠と山坂を上っては下り、下っては上る。汗が噴き出してきたころには、心地よい渓流沿いの小道。おぎん地蔵から蛇形地蔵をたどり、湯川王子からもうひと上りすると、三越峠。雄大な眺望が広がる。
▽ここで昼食を取り、スギとヒノキの人工林の中を一気に下って船玉神社へ。そこから再度赤木越えの急坂を上って汗をかき、ゴールは本宮町の湯の峰温泉。およそ6時間の行程である。
▽とりつかれたように熊野古道を歩き始めて10年になる。当初は3日歩いても、古道を歩く人と出会うことはなかった。それがいまでは大違い。世界遺産になった効果だろうか。途中、幾組ものグループに出会い、追い越し、追い越された。
▽古道沿いの人工林も年輪を加えた。間伐が進んで、見違えるように美しくなった林がある。一方で、手入れがされないまま放置され、昼間でも真っ暗な林がある。山の姿も、地域の人々の暮らしを映しているようだ。
▽サカキやシキミなどの常緑樹に混じって、クロモジの黄色い葉っぱが彩りを添えている。カエデは紅葉を始め、尾根筋の道端には青紫のリンドウの花が咲いている。秋の山は天然色である。
▽こういう景観が、たった半日の山歩きで堪能できる。熊野は本当に美しい国である。(石)
紀伊民報 - 2006/11/7