さびしさの
とけてながれてさかづきの
酒となるころふりいでし雪
と、まぁ、若山牧水のような風流心がないにしろ、師走ともなると、ワインでいうところのヌーボー、魚ならハシリに当たる日本酒の新酒をマダムの酌で粋にちびりと呑みながら、雪化粧した庭の松でも眺めていたいと思うものでありまして…と思うだけは思うんだけど、実際には季節におかまいなく生ビールや焼酎、泡盛をがぶがぶ呑んでいる今日このごろ。皆様の肝臓は健やかでございましょうか。
さて、おいら。大昔、若かりし日は定山渓や登別のような巨大温泉街が大嫌いだったんよ。
でも、これって、ものごとを「群」でしか見られていない浅薄な思考の証しなわけで、「個」で見られるように成長すると巨大温泉街にも愛すべき温泉宿があることに気づき、ホテルチェーンの中にさえも評価できる支配人や料理人がいることが見えてくるのでありまするね。
これはリアルな個を見ずして特定の国を誹謗している愚昧な政治家や運動家にも当てはまるし、酒も同様と思うなり。
某作家が国稀や小林酒造なんぞを認めつつ、いわゆる有名酒蔵の酒はすべからくまずいと断じるのを耳にして、あー個で見られてないなぁ、と彼女の偏狭さを憂えたことがあるのです。
有名酒蔵だって頑張ってるもんね。というわけで、旭川に行った折、ついつい足を向けてしまうのが8年前にオープンした合同酒精の直営売店&レストラン「大雪乃蔵」なのです。
まず、ここ。館内に足を踏み入れると、小川東洲氏の迫力ある書がどどーんと目に飛び込んできて、毎度見ほれてしまうんよ。ロビーの一角が市民ギャラリーとして開放されているのも地域密着型でいい感じだしね。
酒蔵らしく、酒づくり見学コースや試飲もできる売店もあるし、喫茶店やレストランもあるんだけど、このレストランの水が旨いのです。さすが酒蔵。夜の懐石料理が3150円からというリーズナブルさも好評で、7割近くがリピーターというのもうなずける味なり。
スタッフは全部で25人。度重なる撮り直しにも快く応じてくれた吉田支配人(39)も含め旭川出身が大半ってのもいいよね。しかも、吉田支配人、以前は仕込みの職人だったので、説明もわかりやすいのです。
で、見つけてしまったのだ。
ここでしか買えないオリジナル商品を中心に置いてある売店で、あざらしくんを見つけてしまったのです。酒瓶の中で泳ぐあざらしくん。おまえ、なんてうらやましいことをしているのだ。きゃはは。かわいいなり。(北海道いい旅研究室 編集長 舘浦 海豹)
《大雪乃蔵》 旭川市南6条通19丁目2182?103 営業時間/売店は朝10時半?夜8時/レストランは昼11時半?2時半と夕方5時?9時半(月曜定休) 電話0166・39・3788
<筆者紹介>
舘浦 海豹(たてうら あざらし) エッセイスト。旅と温泉の本「北海道いい旅研究室」編集長。道内各地を足で回った温泉への豊富な知識と、正直で辛口の批評が人気。小樽出身。43歳。
朝日新聞 - 2006/12/18
ラベル: その他, 北海道地方