霊泉寺温泉の共同浴場
長野県小県郡丸子町の霊泉寺温泉の共同浴場の入浴料は100円。銭湯感覚で窓口に置くと、番台役の井沢宮雄さん(72)が「ごゆっくり」と声をかけてくれた。
湯は42?43度ほどの無色透明。建物北側に位置する薄暗い浴室は、浴槽に張られた真っ青なタイルがアクセントだ。
「ぬるいようだけど、ちっとも湯冷めしないんだ」。
1日おきに、自転車で20分かけてやってくるお年寄り(83)は自慢げに言った。
午後を温泉でのんびり過ごして自宅に帰り、テレビを見ながら一杯やるのが楽しみなのだという。
共同浴場は70年、旧丸子町が建てた。管理を委託された旅館組合が、地元の人に番台役を頼んでいる。井沢さんは6年ほどになる。
年中無休で午前7時?午後9時。平日で50人ほどの利用客。地元の常連さんもいれば、ふらりと立ち寄る人もいる。
顔見知りも増えた。「そんな人が急に来なくなると心配になってね」と井沢さん。
近くに温泉名の由来となった霊泉寺がある。創建は平安時代とも鎌倉時代ともいわれる。
かつて平維茂(たいらの・これ・もち)が鬼女を退治した後、この地で見つけた湯につかると、たちまち体力が回復したという。寺が建ち、寺湯となった。人々の不治の病を治し、ひ弱な体を金剛のように強くしたと伝えられる。
明治の終わり、12軒の旅館があり、共同湯もにぎわったという。
朝日新聞 - 2007年1月25日